読書日記

間が空いてしまった。

忙しかったし、体調も波があり、なかなか本を読めなかった。クレスト・ブックスも読んだし、読むスピードを上回る速さで買ったり(ゲホゲホ)借りたりしていたのだが、積読になるか読まずに返すことも多くて、もやもやしている。読んでいなかったわけではないけど、なんだか集中できなかったし、しっかり本の世界に入っていくのが億劫だった気もする。移動中に『スマホ脳』(アンデシュ・ハンセン著/久山葉子訳、新潮社)を読み始めて、どうにかスマホから離れたいと思うものの、結局スマホを見てしまうのも読書が進まない一因かも。

特にこの一冊に相当手こずらされた。イーユン・リー『もう行かなくては』(河出書房新社、篠森ゆりこ訳)。読むのに二週間かかった。導入部分を飲み込むのに時間がかかったし、親戚の誰それみたいなモブキャラとの関係も覚えられず。あとローランドっていう名前、キャラが確立する前はホストの方のお顔しか浮かばずなんだか大変な読書であった。
でも読み始めたらイーユン・リーマジックがかかってしまって最後まで読みたくなるのよね。

<あらすじ>
老女リリアは大家族を築いたのち、老人ホームで余生を過ごしている。もっぱら執着しているのは、昔の愛人ローランドの日記。最も気にかけている孫キャサリンとその娘アイオラのために、ローランドの日記に注釈を書いて残そうとする。毒舌でキツい性格のリリアが語る人生訓とは。

リリアとは友達になれそうにはないなぁ。かなり毒舌で、老人ホームの他の住人に変なことを言ってトラブルになるようなおばあちゃん。実はリリアは娘ルーシー(キャサリンの母)を自死で亡くしていて、ローランドの日記を読みまくるのも実はルーシーの極端な性格がどこからきたのかを知り尽くしたいという理由がある。リリアの開拓者精神やドライな物事の見方をライフレッスンとして、軟弱な(とリリアは思っていそう)孫やひ孫に残す一方で、リリアはリリアなりに、自分の家族に起こったことを整理しようとしている。その目的が達成されているかどうかは微妙だけれど、イーユン・リーの構築したリリアは複雑な輝きを持って非常に魅力的な(それでいてかなり信頼できない)語り手として、ページを捲る手を促してくる。

今書きながら感想を整理していて、結局ローランドの日記が一番読みづらかったような気がする。ローランドはリリアとかなり考え方が違うし、二人の人生の交わり方についても(いろいろ知らないだけともいえるが)かなり異なった見方をしていると思う。その上で自分に酔ってる感が強めのローランドの日記に、リリアがツッコミを入れるのが醍醐味でもあるんだけれど、物語の2/3くらいローランドの日記が続くわけで、正直なところヒェーってなる。ローランドの愛人遍歴と彼の結婚もある意味メインテーマの一つなんだけど、ちょっとねぇ。長い。New York Timesもリーの一作前の作品に比べてパンチに欠ける、みたいな書評出してたけど、ローランドがもう少し静かだったらよかったのかもしれない。日記なんていうのは自己陶酔の権化だと思うけれど、作品としてどうバランスを取るのかが難しいところなのかもしれない。

とにかく読むのが大変だったし、だけど辞められなくて(?トライアスロンか?)結局最後まで読んだら、二週間経って他は全然読めてなかった!そんな本だった。悩まされたのも含めて印象深い…。イーユン・リーは短編の方が私は好きなのかも。『千年の祈り』が引き続き売れるように今日も祈願します。

☆☆☆

アラン・ベネット『やんごとなき読者』(白水社、市川恵里訳)をたまたま図書館から借りていて、エリザベス女王が亡くなった翌日、移動中に読んだ。すっきり読める一冊。女王が読書にハマってしまって公務に本を持っていったり、おしゃれが適当になったりといかにもありえそうなシチュエーションにクスリとさせられる。王室のイメージや人々から求められることを土台にした風刺がピリリと効いていて、面白かった。

NetflixのドラマThe Crownを去年家族で一気見したのだけど、王室の人間をとても人間臭く、しかしやはり気高く描いていて、とても印象的だった。The Crownがシリーズを通して描く「一応人間だけど、神に選ばれしもの」といった王位のあり方と、『やんごとなき読者』で描かれている王室像が近かったのもあって、すんなり読めた。

英王室ファンというわけではないけれど、ずっとそこにいた人がいなくなるというのは不思議な感覚。あっちではコーギーと馬に囲まれてるかな。


本以外で印象に残ったのは、NetflixシリーズのMaid。DVや貧困から這い上がる難しさを立体的に描いていて、脚本の丁寧さには舌を巻いたし、いろいろと考えさせられた。そして俳優さんたちもすごかった。マーガレット・クアリーの透明感! マーガレットのリアルママのアンディー・マクダウウェルの醸し出すヤバいママ感! ニック・ロビンソンがダメな若いお父ちゃん役! きっちり演じていて、隠れニックファンのわたしゃ嬉しいよ。元ネタの本(『メイドの手帖』ステファニー・ランド著/村井理子訳、双葉社)も気になる。


☆☆☆

用事のついでに大きめの本屋に寄って新潮クレスト・ブックスフェアを堪能してきた。(人々は書店のフェアを「堪能する」のだろうか?書店員と出版社は堪能していそうだが、一般の読書民はどうなのか…。)22-23年の冊子ももらってきた!激アツ!私のクレスト・ブックスファイルが喜んでいるわ…! これから刊行予定の作品の中で特に楽しみなのはアントワーヌ・ローランだな。オファーレルも気になるけれど、全然図書館の『ハムネット』の予約順が回ってこないのことがもっと気になる。

本屋ではクレストフェアの前で散々悩んだ後に短編ベストセレクション『記憶に残っていること』を買った。『美しい子供』をまだ読破していないのに…(『美しい子供』の一編いっぺん始める前にその作家のフルの本を入手する必要性を感じて図書館に爆走するという謎の読書スタイルのため)。クレスト以外では待ちに待った李良枝セレクション(白水社)や、李琴峰『ポラリスが降り注ぐ夜』(筑摩書房)を購入。その上、最近洋書を読んでいなくて鈍ってきているのを感じるので、Kindleのサンプル数十冊も読みたい…。いろいろ忙しいのにこんなに読めるのか、大丈夫なのか、と思うと結局買って積読にしてしまうという恐ろしい癖が確立してしまった。読む係3人と読書記録係1人くらいに分身したい。

 

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